「私もラウンズに入ろうかしら」

そう言った時のビスマルクの顔と言ったら!

彼は呆れたような、馬鹿にしたような――つまりものすごく「嫌な顔」をした。

しかも

「無理だ」

と、にべもなく言い放った。
は機嫌を損ねつつも、ビスマルクの空になったディーカップに紅茶を注ぐ。

「…そりゃあ貴方は良いわよ。ラウンズとして戦場だったらエリアの端から端まで、どこへだって行けるんだから。けど私は?貴方が戦場に行っているときは此処で1人貴方の帰りを待つだけ。貴方が死にそうになってるかもしれない時も、何もわからないままこの屋敷の中に1人でいるのよ。それがどれだけ辛いことか。貴方わかる?」

それにだって貴族令嬢のたしなみとして剣も扱えれば、KMFだって乗ることができるのだ。
ラウンズに入れる可能性は0ではない。
しかしビスマルクの反応は相変わらずだった。

「駄目だ」

はいよいよ不機嫌になるが、ビスマルクは涼しげな表情で紅茶を啜る。

2人の間にしばしの沈黙が落ちた。

ビスマルクは溜息をつく。
そして目の前で不満でパンパンになっている妻の頬を撫でる。

「馬鹿を言うな。私が何のために皇族の親族たるお前を、苦労して娶ったと思っている」

「・・・あら、何のためなの?」

「お前を私の屋敷に閉じ込めておくためだ」

は一瞬きょとんとしたが、すぐにウフフと含み笑いを漏らした。

「それは知らなかったわ」

そう言うやいなや、彼女は席をたってぴょんとビスマルクに抱きついた。

「やきもちさんね。ビスマルク!」

くすくすと首筋で笑う妻の背中を、ぽんぽんとビスマルクが撫でる。
があまりに勢い良く抱きついてきたものだから、テーブルが動いてティーカップが下に落ちてしまった。
それなりに気に入りだったティーカップが床の上で粉々に砕けてしまっている。
ビスマルクは内心で溜息をつきつつ、苦笑した。

ナイトオブワンの自分にこのようなことが出来るのは、この腕の中の妻だけだ。

――には一生勝てそうにない。



fin

08.9.15









※お題配布元
seventh heaven