手元で怜悧に光るのは飾り気のないシンプルな短剣。
嫁入り道具として実家から持って来たのは、きらびやかなドレスでもなく、化粧道具でもなくこの一振りの小さな剣だった。
それも服の下に隠して持ち込んだものだから、彼には「随分身軽で来たものだな…」と呆れられたものだ。



真っ暗な部屋。
大きく開いた四角い窓からは、たくさんの星々が煌めいている。
は穏やかに微笑む。

「思い出すわね。ビスマルク。私たちの初めての夜を」

廊下から騒がしい足音が響き、乱暴に扉が開かれる。

「いたぞ!反逆者だ!!」

その言葉を皮切りに次々と武装した軍人が部屋に入り込み、ずらりと銃口をに向ける。

「…この度のビスマルク・ヴァルトシュタイン卿のルルーシュ皇帝陛下への反逆行為は奥方様――いかに皇族縁者たる貴方様といえども無罪放免とは参りません。潔く観念して頂きますようお願い申し上げます。」

真ん中に立つ男の言葉に、カッとの目が大きく開く。


「この愚か者!」


の気迫に押されたように銃口が一歩下がる。
彼女は瞳に強い意志を閃かせたまま続ける。

「私の誇りはナイトオブワンの妻であること。最強の騎士たる者の女はお前たちごときに殺されはしない。もしお前たちに殺されるくらいなら――」


は短剣の切っ先を自らの喉元にあてる。


「私が、私を殺します」


その瞬間部屋が揺れた。暗かった部屋が一段と暗くなる。
と対峙していた男達が焦ったように口走った。

「あ、あれは…」
「ギャラハッド…!?まさか死んだはずでは…!!」

直後ギャラハッドのコックピットから出てきた影が窓から部屋に乗り込んで来た。
大剣を鮮やかに閃かせ、彼は襲撃者たちを瞬殺していった。

「…何故逃げなかった」

返り血に塗れた男が言う。

「一人では逃げないわ」

「そうか。――ならこれで文句はないな?」

ビスマルクは強い力での腰を抱き寄せた。
が美しく微笑む。

骨が軋むような強い抱擁。久方振りの口づけを交わしながらは思った。

――貴方とならどこまでも逃げていける。

うっとりと体から力が抜けるの手にビスマルクの手が絡まる。
の手から短剣がすべり落ちた。

「…ビスマルク?」

「それはもうお前には必要がない」

元帝国最強の騎士はの耳に囁いた。

――これからはお前も、お前の誇りも、私が守るのだから。



fin

08.9.15




※お題配布元
seventh heaven