陛下との謁見を終えて、なんとなしに歩いていた庭先で見知った少女の姿を見つけた。
屋外のテラスに座っている彼女は膝に本を広げながら、こくりこくりと舟を漕いでいる。
本を読んでいて途中で眠ってしまったのであろうことがありありと分かる光景に、ビスマルクは苦笑しながら近寄った。



(…?)

ぼんやりと目を覚ますと、前にはお気に入りの庭の風景。横には――

「……ビスマルク!?」

「起きられましたか。姫様」

どうやら知らぬまにはビスマルクの肩にもたれて眠っていたらしい。
どれほどその態勢でいたのだろうか。
時刻はもう夕刻を迎えようとしているらしく、橙色に染まり初めている。
慌てて彼の側から離れた拍子に、彼の手に持つものが見えた。

「あ」

「失礼。あまりにも手持ちぶさただったものですから。――しかし意外でしたな。貴女様がこのようなものをお読みになられるとは」

そう言われて返されたのは――情緒溢れる愛の言葉が綴られた詩集だ。
は心なしか頬を赤くして白状した。

「これは…クロヴィス兄様が貸して下さって…」

「あぁ。クロヴィス殿下ですか。なるほど」

ようやっと納得したという表情で頷いたビスマルクにはむっとする。
ロマンティックかつ非常にリリカルなその代物をのものだと思われるのも恥ずかしいが、あからさまに「お前はこんなキャラじゃない」と言う態度を取られると腹が立つ。
眉を逆立て抗議しようとした瞬間、一際強い風がふいた。

そのせいでの体にかけられていた布が落ちる。
その時に初めてそれがナイトオブワンが纏う純白のマントだと言う事に気付いた。

「ビスマルク。これは…」

どうやら恐れ多くも自分はナイトオブラウンズ筆頭のマントにくるまって眠りこけていたらしい。
しかも彼の肩によりかかって。

ビスマルクは微笑した。

「ご心配なく。姫様。私以外ここを通っておりません。だからこの状況も誰にも見られてはいません」

――私は見られても良かったのに。

想い通じ合っていると言うのに、あくまでも皇族と騎士という身分を気にする彼が歯がゆかった。
同じ立場の姉のコーネリアとギルフォードなどはもっと親密に行動している。

気に入らないと思ったはすぐに行動に出た。

「ビスマルク!」

唐突なの口付けにビスマルクは驚きながらも答えた。

「…姫」

「誰にも見られてないのなら良いのでしょう?」

その言葉からの心情を察したのかビスマルクは苦笑した。

そしてそっと、機嫌を損ねる姫君をあやすように胸に抱き込んだ。

抱きしめられながらは決意する。

――今はこれで許して差し上げます。
でもいつかはみんなの前で「貴方は私のものです」と言わせてみせますからね!!









fin



*おまけ*


「…まだか?」
「まだです」
「いっそますます二人の世界に突入……」

庭の低木に隠れているのはシャルルてジノとアーニャ。
シャルルは唸った。

「流石は私の見込んだ男。よりにもよってこんな面倒な所でラブラブするとはな…」

実はとビスマルクがいる庭は皇族の私邸と執務室を繋ぐ通路のすぐそば。
ビスマルクは知らないが、多くの皇族はその庭を好んでいて移動がてらに散歩を楽しんでいる。
結果。シャルルとジノアーニャがいる低木の向かい側には、これまた低木の影に隠れるようにシュナイゼル、コーネリア、クロヴィスが這いつくばっている。
一歩でも足を踏み入れれば台無しになってしまいそうな、良い雰囲気のとビスマルクにその場にいる全員が足止めをくらっていた。


そしてその場にいる全員が親鳥がひな鳥を見守るような気持ちで2人を見守っている。

あぁ知らぬは本人達ばかり。


おわり


08.9.15