緊張のあまり足がもつれて転びそうになる。
すると周りにはほとんど気付かれないだろう、というさりげなさで兄がそっと引っ張って支えてくれた。

今、の前には夢のような光景が広がっている。

日の光を受けて輝くステンドクラスに、小さめだが格式高い白いチャペル。
そして赤いヴァージンロード。
父の代わりに自分がと申し出てくれたシュナイゼルとともには赤い絨毯の上を歩いている。
教会の高窓から差し込む日差しを受けて、シュナイゼルの極上のブロンドと白皙の美貌が煌めく。
その神がかった美しい姿は、もしかしたら一応主役であるはずの自分より目立っているかもしれない。
と、主に女性列席者の熱い視線を感じては思う。
この兄の妻となる女性はどんな人だろう。想像も出来ないが、きっとすごく苦労するはずだ。
ふっと組んでいたシュナイゼルの腕が離れた。

「…綺麗だよ。。君の晴れ舞台を最後まで見届けられないのが非常に残念だ。」

シュナイゼルはこの後すぐに外交政策のために極東エリアまで赴くことになっている。
時間の余裕がないのだろう、教会の隅で兄の副官であるカノンがちらちらとこちらをみている。
しかしシュナイゼルは微塵も焦りを感じさせず、いつもどおりの穏やかな口調で語りかけてくる。

「君は一杯愛して、愛されておいで」

「はい!お兄様」

「良い返事だ。――さぁ行っておいで」

シュナイゼルが微笑む。
視界の端にいるカノンもペコリと頭を下げながら、優しくほほ笑んでくれた。
は頭を下げて、ヴァージンロードの果てで彼女を待っている彼のもとに向かった。
彼女の最愛の騎士は当たり前だが見慣れない服を着ていて、それが惚れ惚れするくらい似合っている。
向かいあうと緊張と恥ずかしさで視線が泳いでしまう。
けれども前に立つ彼の瞳が落ち着いてと、優しく語りかけてくるのに気がついたらふっと力が抜けた。
参列者は皇族の結婚式というにはあまりに少なかった。
それは今回の婚姻がヴァルトシュタイン家への降嫁という形であること。
2人が本当に近しい者しか招待状を送らなかったためである。
その親しい者たちの前で、そして神の御前で、2人は誓いくちづけを交わした。




青空にが思い切り投げ放った花束は、藤色のマントを纏った女騎士の手の中に落ちた。

「あ?私か?でも私には必要がないからな。ほら」

ものすごく軽い調子で、その上とても無造作にノネットは隣りにいたコーネリアに花束を押しつけた。

「次はお前とギルの結婚式だな!」

「な、なにを言っているんです。先輩!?」

顔を赤らめたコーネリアが抗議すると、どっと周りから笑いがもれた。
恥ずかしげに周りを見ていたコーネリアだが、ふとを視界にいれると顔を綻んだ。

「おめでとう。お前の祝儀、心から祝う」

「ありがとうございます」

それからコーネリアは意趣返しとばかりに、悪戯っぽくビスマルクを一瞥しながらに言った。

「早く子供を作ると良いぞ。面白いものが見れる」

「コーネリア皇女殿下…」

ビスマルクがわざとらしい咳払いをする。
はわからずに、何のこと?とビスマルクに尋ねても、姫様は知らなくてよいことですとにべもない。
そばにいたノネットはおかしそうに大笑いしていたが、突然閃いたとばかりにあぁと声をあげた。

「そう言えば様と結婚されたと言うことは、ヴァルトシュタイン卿はコーネリア殿下と義理の姉弟ということになるのでは?」

「…恐れながら、形の上ではそうでしょうな」

ビスマルクは余計なことを言うなとばかり部下を軽く睨む。
ノネットはどこ吹く風とばかりにニヤニヤと笑い、コーネリアもまたにやりと不敵な笑みを浮かべた。

「ナイトオブワンが弟か。これは頼りがいがあるな。最高の騎士といえど義姉の頼みとあらばある程度の無理も聞いてくれるだろう」

「…お戯れを。殿下にはすでに類いまれなる騎士が揃っておいでです。私などが出る幕はとてもとても」

コーネリアの軽口をいなしながらも、ビスマルクは少し困り顔である。
はくすりと笑った。彼のこんな顔は滅多に見れない。
しばらくするとビスマルクの部下が来て、次々と祝辞を述べに来た。
彼らはの花嫁姿を次々と褒める。お世辞だろうが褒められるのは素直に嬉しい。
ふいに飲み物が欲しくなって、ビスマルクのそばから離れると肩を叩かれた。

「やほー。皇女殿下。ご成婚おめでっとー!」

様。おめでとうございます」

調子っぱずれな声で祝辞を述べるロイドと頭を下げて折り目正しく祝うセシル。
相変わらず面白い組み合わせだと思う。

「ねぇヴァルトシュタイン卿と無事ゴールイン出来たのは、僕のおかげだと思わない?お礼としてさー。わずかばかり特派の予算をさぁ…」

「ロイドさん!!なんて失礼なことを言ってるんです!?」

セシルはロイドの力強く下に押さえ付けて、「すいませんっ!」と必死に謝る。
しかしそう謝るセシルの瞳にもロイドと同じ色が見えた気がして、はクスクスと笑った。

「…お兄様にそれとなく言ってみましょうか?」

「本当ですか?!」

「なぁんだ。セシル君も結局ボクと同じじゃないの」

余計なことを言ったロイドがセシルに一発殴れた。







後編へ続く

08.3.22