「姫様」

そう自分を呼ぶ彼の声が好きだった。

「姫様」

何度呼んでも答えないにビスマルクはため息をついた。

「…怒っておられるのですか?」

「当たり前です。」

ビスマルクはのことを「姫様」、他の皇帝の姫君たちのことを「皇女殿下」と呼んでいた。
あぁ自分は彼の特別なのだと優越感に浸れる事実。
けどそれも今日崩れさってしまった。

「仕方がなかったのです、どうしてもと言われてしまって…あの場はああするしか場がおさまらなかったのです」

偶然廊下で会った第五皇女であるカリーヌに「自分も姫様と呼んで欲しい」とせがまれ尽くし、ついに彼は折れてを「姫様」と呼んだのだ。
それをたまたま通り掛かったが目撃してしまった。
それだけと言えばそれだけの事。
だがには許せなかった。

「ビスマルク。許して欲しいですか?」

「…えぇ」

「じゃあこれからは私の名前を呼んでください。」

「!?」

の言葉にビスマルクは「それは…」と口ごもる。
しかし彼女は許さず、更なる追討ちをかける。

「さもないとビスマルクとは一生言葉を交わしません」

ビスマルクは心底困り果てた。
最強の騎士も目の前の姫には滅法弱い。
ためらいがちに彼は、口を開く。


「…お許し下さい。様」


その言葉にパッとの表情が輝く。

「もっと!もっと私の名前を呼んで!」

そう言って抱き付きながらせがむに苦笑しながら、ビスマルクは答える。

様」

耳元で名前を囁かれたは気付かなかった。

彼女の名前を呼ぶ彼もまた、少し嬉しそうに笑っていたことに。





Fin

08.9.20