振り袖を着たまま待ち合わせ場所に待っていると、優雅なフォルムを持つ車がゆったりとこちらに向かって来た。
車からクレイマンが顔を出す。

「おや、美堂君は何処に行ったんだい?」
「仕事」
「それはそれは…彼の美的知識の豊富さは称賛に値するものだけど、彼はもう少し女性に対するマナーを学んだ方が良いね」

彼女は車から出ると、スマートな動作で卑弥呼の前のドアを開けた。
卑弥呼はすぐに乗り込もうとしたが、クレイマンはそれを手で制する。
彼女はレバーを操作して助手席の背もたれを下げた。

「そのまま乗り込むと帯が崩れてしまうからね」

卑弥呼は感心した。
この細やかな気遣いは女性ならではだろう。

走り出す車の中で、卑弥呼は口を開く。


「なんだか本当に悪いわね。着物代も出させたくせに写真まで」

「気にすることはないさ。私も、美堂君もジャッカルもみんな君への好意で好き勝手やっているだけだからね。」

「でもあんたには着付までやってもらって」

「それに関してはこちらが感謝したいくらいだよ。知識はあっても初めての着付けだったからね。本当に満足して頂けたのかな?」

「そりゃ勿論よ」


髪型も帯の締め方も申し分ない。
式が終わってからもまったく着崩れしない。
それにクレイマンの作ってくれた後ろ帯は成人式で見渡す限り同じ形がいない変わったものであったが、実に小粋だ。
そう伝えると、それは良かったと、クレイマンは安心したように微笑んだ。



写真をとるためにスタジオに到着すると卑弥呼は驚く。


「えっ?写真ってあんたが撮ってくれるの?」

「ご不満かな?」

「・・・あんたどんだけ特技があるのよ・・・」


クレイマンは「さぁ、いくつあったかな」と軽く笑ってレンズの中を覗く。


「悔しいけど黒地の着物はレディポイズンに良く似合っているね。これもジャッカルの愛の力って奴かな?」

「いっ、いいから早く写真撮ってくれる!?」


不意打ちに動揺して急かす卑弥呼とは別に、クレイマンは少し首を傾げながらカメラから顔を離してしまう。
クレイマンは卑弥呼の傍によって、顔を近づけた。

「何?」

「口紅が取れてる。しばらく口を結んでいてくれるかい?」


クレイマンはスーツのポケットから口紅を取り出すと、指に紅を乗せて卑弥呼の唇のそっと塗っていく。


「・・・そう唇を少し窄めるようにね。・・・そう・・・いいね・・・」


不意に同姓であるにも関わらず、唇にあたる指の感触と至近距離にある秀麗な面差しに卑弥呼はドギマギした。


「・・・おや?撮る前に被写体の顔を紅くさせてしまったかな」

口紅を塗り終わると、クレイマンは悪戯っぽく笑った。









写真を撮り終えた後、卑弥呼は最後に赤屍の家に向かった。
本当はすぐにでも自分の家に帰って旨寝を貪りたいところであったが、スポンサーの一人である赤屍に「もう一度じっくり見たいので、来て欲しい」とあらかじめ約束されては断ることはできない。
マンションの玄関で赤屍の家の番号を押すと、本人の声が返って来た。
一応借りていた合鍵は必要なかったようだ。

「お疲れ様」

「お疲れ様です」

卑弥呼は運び屋の仕事に対して、赤屍は成人式に対してお互いを労いながら部屋に入っていく。
リビングで通されると、そこで簡単なお披露目が始まった。

「右に回ってください」

赤屍の指示に卑弥呼は黙って、くるりと体を右に回す。

「次は左に」

袖を広げながら、また卑弥呼は指示通りに回ってみせる。
七五三の子供じゃあるまいし、どうにも間が抜けているが、もう反論する気力もない。

「とっても素敵ですね。あれくらいの支払いで、このようなものが見れるとはまったくもって僥倖。」

赤屍は卑弥呼の振袖姿を見て、満足そうに頷く。

「赤屍ー。いい加減疲れたわ。もう脱いでいいかしら?」

「では、こちらへ」

そう言って違う部屋に通されると供に着替えを渡される。
何故赤屍宅に着替えがあるのかということは、卑弥呼にとってあまり突っ込まれたくない所である。


「で?」

「はっ?」

「着替えるんだから、出て行きなさいよ!」


何故か一向に部屋から出て行かない赤屍に、卑弥呼は叱り付ける。
赤屍は首を傾げながら「出て行って宜しいのですか?」と訳のわからない事を言う。


「さっさと出て行け!!」

赤屍は大人しく部屋を出て行った。
まったくわからないのは卑弥呼の方である。
最低最悪の魔人赤屍蔵人の唯一の美点は女性に紳士的な所である。まちがっても女性の着替えを見ようなど下衆なことなどしない・・・はずである。どうにも解せない。
だがすぐに卑弥呼は気づくことになる。
赤屍は非常に合理的名人間だったということに。


「・・・着物が脱げない」

そうなのである。まず後ろ帯を解こうとしたが、形がくずれないように見えないところに、たくさんピンを使用しているため、なかなか取れない。その前に背中にあるために自分では見えないのである。
これはどうにも自分の手に負えない。悟った卑弥呼は救援を呼んだ。

「あかばねぇー」

ドアはすぐに開いて、事態を察知していたのだろう彼は器用に手際良くピンを抜いて帯をほどきだした。
そして作業を終えると赤屍は素早く部屋を出て行った。

さぁこれで一人で脱げるだろうと思った卑弥呼は髪に手をやった。髪の毛にも多くのピンが挿さっている。
何気なくピンを抜こうとしたが、ワックスで髪が固まってしまってなかなか抜けない。
少し力を込めれば抜けるのだが「痛いっ」という声があがり卑弥呼は涙目になった。
ピンと一緒に髪が数本抜けている。しかも思っていたよりもピンの数が多い。
卑弥呼は情けない声で救援を呼んだ。

「あかばねぇー」

パタリとドアが開いて、再び瞬時に状況把握をすませた赤屍は卑弥呼の髪から器用に素早くピンを抜いて行く。
作業を終えるとまたドアの外に出て行く。

しかし結局そのあとも「あかばね」コールは五回ほど続いたのであった。




洗った食器を軽く拭いて、カゴに置く。
濡れた手をタオルで拭いながらリビングに向かえば、レディポイズンはソファで安らかに寝息を立てていた。
どうやら夕食の後に少しだけ時間をとって片付けている間に眠ってしまったらしい。
体を丸めるように眠る卑弥呼の髪に触れる。ついさっきまで濡れ髪だった髪は乾いてしまったようだ。ならばこのまま眠らせて問題ないだろう。

「おやすみなさい。レディポイズン」

肘掛けに座り、卑弥呼の髪を撫でる。
卑弥呼に向けるその視線は殺人鬼と思えぬほど、暖かで優しいように見えた。

「成人おめでとうございます。どうかこのまま健やかに成長して、もっともっと私の近くへ来て下さいね」

…待っていますから。
慈悲深いとさえ錯覚してしまうような程穏やかに、死に神は密やかに囁く。

そうして彼はベットに寝かしてつけるべく、そっと卑弥呼を抱き上げるのだった。


end



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おっ、遅くなりました・・・・orz
という事で成人式でお姫エスコートされる卑弥呼でした

第1パート担当は蛮ちゃん。
原作の蛮ちゃんは好きでも嫌いでもないんですが
二次で描いているうちにすごく好きになるのは何故でしょう?
蛮ちゃんマジック☆
卑弥呼のほうは蛮ちゃんのこと吹っ切れてるようで、やっぱり時々揺れてる。
そんなもんだよね。

第2パート担当はクレイマン。
実は氷野大プッシュのクレ卑です。
忘れてはいけない。
なんてたって彼女は原作で一番最初に卑弥呼をナンパした人物ですからね!!
これはもう卑弥呼と百合百合で危ない世界にいってもらうしか・・・・www

第三パートは勿論我らが屍でした。
一番難産だったけどね(爆)
でもやりたいシーンは全部出来たし満足!
頭撫でてもらったし満足!

ということで書き手自身は大変楽しかったブツでした。
ここまでお付き合いして下さった奇特な方
後編upが遅れて申し訳ありません
読んで下さってまことにありがとうございました!

08.1.21