帰の馬車のトラックの中。

助手席で眠ろうとした卑弥呼だが、体が疲労しすぎて眠れない。
諦めて卑弥呼は、後ろを向いて赤屍に話しかけた。

「ねぇ。赤屍。あんた今回あの菱木と一緒だったんでしょう」

赤屍は拭いていたメスから顔をあげる

「そうですが?」

「あんた達ってさぁ…会話とかすんの?」

「しますよ」

「えっ!どんな!?(ってかアイツ、まともな言葉喋れるの!?)
あっわかった、人体の解体法とか効果的なボコり方とか?」

「違います。彼と話すのは、そうですねぇ…」

赤屍は、卑弥呼が聞いた事の無い高等理論の名をぽんぽんと並べていった。

「相対性理論」なら聞いた事はあるが
「ラッセルの集合矛盾論」「M理論」など言われてもさっぱりわからない。

卑弥呼は目を白黒させる。

「…はっ???」

「彼との会話は、知的好奇心を刺激されて中々好ましいですよ」

「…マジで?」

「ご存知なかったようですね。彼はああ見えて、中身はかなりのインテリジェンスなのですよ」

軽く言うが、はっきり言って「うっそーォ」的内容である。
そもそもあの菱木がそんなに喋れることからして、卑弥呼は大驚愕だ。
卑弥呼の中では菱木はずっと、「うー」とか「をおー」とか雄叫びをあげているイメージしか無い。

ちらりと横のドライバーを見る。

「……馬車さん知ってた?」

「ワシも初めて知った時は、驚いたもんじゃが」

つまり知っていたと。
「ふーん」と言いながら、卑弥呼は少しむくれた。
それは彼女の運び屋としての矜持が、多少なりとも傷つくものだったからだ。

しかしそれにしても、あの菱木にそんな一面があったとは意外すぎる。
今度話かけてみようか。しかしあの風体でインテリというのは、さらに近寄りがたくなってしまった気がするのだが…。

それから卑弥呼は、人類の神秘という深遠たる哲学の扉を開こうとしたが、
その前にあっという間に眠りに落ちてしまった。