― 4―
宵にさしかかろうという時刻。
赤屍は昨夜の帰り際の約束どおり、卑弥呼の様子を診に訪問した。
そろそろ電気をつけなければ不便な時間だが、灯りがついていない。赤屍は不審に思いながらやや足速に歩き、卑弥呼をキッチンで見つけた。
「おや、起きていらしたのですね。返事が無いので、倒れているのではないかと勝手に入ってきてしまいました。」
今日の赤屍は黒い帽子に黒いコートというお決まりの格好に、両手に白いスーパーマーケットの袋(巨大)を携えている。黒と白のコントラストが素敵に奇抜だ。ちなみにスーパーの袋からは長ネギと大根が飛び出している。
卑弥呼は黙りこくって佇んでいる。
「その様子だと、熱は下がったようですね。安心しましたv何か食べられますか?色々買ってきたのですが」
言いながら赤屍はぱんぱんに入った袋をテーブルに置いて、ごそごそと中身を並べだす。
「そうそう。精がつくよう卑弥呼さんのために、とっておきの食材を入手したのですよ」
目を細め、満面に笑いながらごそっと袋からあるものを取り出す。
「熊肉です。この味がまた忘れられない味でしてv」
「……………私、蛮が好きなの」
ぽつりと呟くような言葉。
赤屍は少しだけ動きを止めたが、すぐに笑顔に戻り「ええ、存じてますよ」と答える。
「蛮しかいらないの!!ブードゥーチャイルドだからとか。あらかじめ愛するよう定められていたとか関係ない!!私は紛れも無い私の意思であいつを好きになったの!!」
想いが溢れて、暴走する。
拒絶したくせに。捨てたくせに。いらないくせに。
どうしてあの男は、ああいう真似をする。どうしてあの男は私の心をかき乱すのだ。
どうして・・・っ!!
一欠けらも動揺も見せない赤屍とは対照的に、卑弥呼の言葉は熱を帯びていく。
「ワルぶってるけど正義感が強いのも、あの背中にたくさんの哀しみも孤独も背負っているの知ってるわ。無神経そうに見えて、私が落ち込んでいるとすぐに気づいて話しかけてくれる。頭を撫でてくれる。不器用で優しいあいつが好き。好きよ。好きなの。手に入らないなんて考えられないくらい・・・!誰よりも愛している。愛しているの!!!」
頭に蛮との思いでの数々がよぎっていく。
嬉しい、楽しい、悲しい、悔しい、憎い、愛おしい。様々な記憶が寄せては胸を焦がす。
昂ぶって、灼熱の感情を吐露した卑弥呼は一度言葉を切る。
だがすぐに毅然とした面を上げた。
「だから」
真っ直ぐと赤屍を見る。
取り乱したように荒々しく感情を吐露したと思えない。
静かに澄んで底に強い意志を透徹させたような瞳。
赤屍は密かに、その瞳は誰かに似ていると既視感を覚える。
「だからあたしは、これからあんたを好きになる。死んでも良いくらい、あんたを好きになることに決めたの」
誰よりも、蛮よりもこの男を、これから愛す。
一人の人間に対する、特定の執着のリスク。
そのすべての重さを、またあえて背負おう。
あの人が、が笑っていられるように。
それは望むものすべてを与えるという男に対して、自分は何を返すべきかの答えでもある。
「嫌だなんて言わせないわ。あんたとしてはそれも計算の内だったはず。ブードゥーチャイルドがその憎悪の力を向けるのは愛したものに限るのだから」
毅然として言い放つ。
そう。卑弥呼はやっと了解した。
赤屍の優しさの理由を。その打算的な行動について、軽蔑も嫌悪も感じない。いっそ安堵さえ覚える。
何の問題も無い。
私たちの利害は一致している。
怯まずに向けた視線の先にいる男は、無反応とも言える様子でじっとこちらを見ていた。 だ
が、ふいにクックッと喉の奥で笑って、卑弥呼の方に足を運ぶ。
「・・・貴女に愛される事は、テナンに愛される事。その呪われた愛憎の刃がこの私に向けられるということ」
赤屍は卑弥呼の前に立つと、すっと膝をついた。
卑弥呼を見上げた端整な顔に、これ以上ない優雅な笑みを刻む。
「とても待ち遠しいですね。私の死神の鎌が貴女に死を『運ぶ』のか。貴女の愛憎によって研ぎ澄まされた刃が私に死を『運ぶ』のか。楽しみですよ――とても、とてもね」
卑弥呼の右手を取る。
死神は恭しくその手の甲に口付けた。
「貴女のその決意によって、私達の契約は完成された」
騎士が忠誠を誓う儀式。
なれど。その男のうっすら開いた瞳は、不敵な光を宿す。
赤屍は立ち上がって、卑弥呼の肩に手を置いた。
うってかわって
雰囲気を和らげ、穏やかな、優しいともいえる声音で語りかける。
「だから、泣いてよいのですよ。私は貴女に私を差し出すという約束です。貴女が望むのなら胸くらい貸して差し上げますよ」
卑弥呼の静かな決意を称えていた顔が、その言葉に歪む。
「・・・っ!どうしてあんたは!!」
どんっと赤屍の胸を叩き俯く。
「あんたが優しいなんて、気持ちが悪いのよ!残酷なのよ!!馬鹿・・・っ!!」
嗚咽が漏れる。固い決意で覆っていた鎧が剥がされて、感情があふれ出してしまう。
ずっと胸に抱いてきた感情を捨てる。それは自分を殺すことだ。自分の中の蛮を殺すことだ。
辛くて、苦しくて目を閉じる。すると蛮の死体が浮かび上がってくる。
もっと辛くなって泣き叫んで、体を折り曲げようとすると、赤屍が片手で抱き寄せて胸に抱いた。卑弥呼は必死にすがりつく。
死神の腕は思いのほか暖かくて、余計涙が溢れた。
死神は魔女に、泣き場所を差し出した。
魔女は死神の腕の中で恋に破れた少女のように
ただ、泣きじゃくった。
end

どうしよう!跪いちゃったよ!!
夢どんだけみれば気が済むの自分!!(汗)
|