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::桃色思い出:: *屍が半端なくバカです。危険だと思ったらバックターン(つうかネタが最低)
赤屍の家に遊びに来て、居間で茶を振る舞って貰っていた所、仲介屋から連絡が入った。
ジャッカルは喜々として出かけていき、彼と「衣服についた血を綺麗に洗い流す方法」について、ああでもない、こうでもないと熱く議論を交わしていた卑弥呼はぽつんと部屋に残された。
とりあえず、ずずっと出された茶をすする。
赤屍の家の茶は高級茶なので、飲めるだけ飲んでおくに限る。工藤卑弥呼は自他供に認める倹約家であった。
しかし飲み終えると手持ち無沙汰になってしまった。赤屍の家はテレビが無いので時間がつぶせない。帰っても良かったのだが、赤屍にはすぐに帰ると言われている。待っていた方がいいのかな、と卑弥呼は仕方なしに、たいして散らかっていない部屋を片付けることにした。
そして。
「…あれ?」
わずかに外にでていた仕事の書類をしまおうとしたが、キャビネットの引き出しが開かない。
鍵付きの引き出しだったろうか。と考えたが鍵穴らしきものが見当たらない。中のものが引っかかっているだけか。力任せにえいっと引いてみた。
「あれ??」
開いた引き出しの中の様子がおかしい。前に見たものと全く違うので、どうやら開ける場所を間違えたようだ。それにしても、今開けた引き出しはまったく赤屍らしくなかった。ダイレクトメールや広告のたぐいが乱雑に山になっている。
珍しいな、いつもはこんなのすぐに捨てるのに。
手をだしても良さそうなので、山を整理すると、まるで隠されていたかのように下から小さな紙切れがたくさん見つかった。ゴミだろうと拾って集める。しかしよく見ると、どうやらそれは細かくちぎられた写真のようであった。
その時、卑弥呼の心に満ちたのは、他人の秘密を暴こうとする好奇心では断じて無い。
満ちたのは、やっと昨日完成した新開発の毒香水の効力を試してみたいという気持ち。
数分卑弥呼は己と闘った。しかしこの日の彼女は、抗えない誘惑に敗北した。新種の毒香水は戦闘用ではないので、使う機会を得るのが難しい…。
腰のポーチに手を伸ばす。慣れた様子で、片方の手で蓋を開ける。そのカモミールに近い香りは、人に害を与えるとはとも思えない…
「復元香」
集めた紙片がほのかに発光する。
そして一秒一秒経つごとに、まるでビデオの早戻しのように、一枚の写真へ、元の姿へ戻っていく。
再生が完了した瞬間。卑弥呼は、はっっと息を飲んだ。
その写真には、2人の人間が写っていた。
一人はピンクのミニスカ。もう一人は黒のロングドレス。
どちらも女性の格好をしているが、女性ではない事は一目でわかった。
一人は前衛芸術か何かですか。と尋ねてやりたくなるような極彩色の化粧をしていて、服も極めつけのショッキングピンクのドレスを着ている。写真で見てもピンクの服の上のピンクのスパンコールがちかちかする。さらに、その写真には「ピンクのキティが貴方に捧げる熱い一夜vv」という文字がやたら可愛いカッコいいサイン書きで書かれていた。
目を瞬かせながら、そういえばあの男はかなり前に変な事を言っていたと卑弥呼は思いだす。たしか――『ピンクの猫以外は好きです」とかなんとか…。
「……」
卑弥呼は意識が遠のきそうになりながら、そのピンクの隣りのさらに危険度が上がるブツに視線を移す。
それは、この世の人間とは思えない美しさ。
流れるような光沢のある黒髪はアップに結い上げられ、いつも綺麗な肌だと感心する肌はさらに白磁に近い完璧さ、白い顔の中にある唇は真紅で信じられない程蠱惑的だ。黒い光沢のあるドレスで浮かぶ線は、女としてはやはり太めだが、ギリギリセーフといったところで、腰のラインはそこらの女よりも綺麗かもしれない。
その道の本職だろうピンクは「こいつの染色体は絶対ダブルXじゃねぇ」と思うが、もしかしたらこちらの妖艶な黒服美人なら、うっかり騙されていた可能性もある。――長年の同業者でなければ。
彼女は悟った。
それは恐るべき長年の経験でというもので、この男にどんな事が起こったのか推測出来た。
最初は理解とまでいかなかったものの、ある程度の鷹揚さを見せていた態度が一転。ある時を堺に彼はそういった職業の人間を毛嫌いするようになっていたし、この間一緒に行ったデパートではサン○オのリボンをつけた猫のキャラクターをまるで親の敵を見るように睨み付けていた。すべての符号が一致する。
卑弥呼は写真に写る黒髪の女装の麗人とまったく同じくらい、遥かに遠い目をした。
レディポイズンは家に帰ることにした。自分もピンクの猫よりも黒猫の方が断然好きだと思った。
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赤屍蔵人は深刻な面持ちで、仕事のパートナーである馬車に打ち明けた。
「実は…どうやらウチに小人さんがいるみたいなんです」
「はぁ??」
意味がわからない。
「……それがですね。あの細かく裂いた写真。隠していたのに気が付いたら元通りになっていたんです。…きっと夜中に小人が魔法をかけて直したんです。…あんな…あんな、厭わしいものを…」
くわっ、と赤屍の細目が開眼する。
「なんて悪い小人さんなんでしょう…!!」
「おんし。ちょっと病院行って来い」
精神の。無音で付け加えたミスター・ノーブレーキは、脳内で一番近い病院へのルートを検索した。


06.5.30
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